広島高等裁判所 昭和37年(ネ)269号 判決 1966年3月25日
宇部市上宇部中村川津一四七四番地
控訴人
有限会社藤香田商店
右代表者代表取締役
香下七郎
下関市上田中町山の口
被控訴人
下関税務署長
木村貞明
右指定代理人
川本権祐
同
鴨井孝之
同
横田正美
同
米沢久雄
同
浅田和男
同
常本一三
右当事者間の行政処分無効確認等請求控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴人の当審における新請求部分を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人会社代表者は「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し昭和二六年二月二〇日になした、控訴人の昭和二二年一〇月一日から同二三年九月三〇日に至る事業年度の法人税額を、加算税金四四六三円を含む金一六万七六二七円とした更正処分は、無効であることを確認する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人指定代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠の関係は、左に附加補正するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
(控訴人代表者の主張)
(一) 控訴人が本件更正処分の結果納付を命ぜられることとなつた税額は、控訴人の確定申告にかかる正当な法人税額一五万二九七六円(普通所得に対し一二万〇四四〇円六〇銭、超過所得に対し三万二五三五円五五銭)を超える金一六万七六二七円(普通所得に対し一二万五〇六九円、超過所得に対し三万八〇九五円、法人税法第四二条による加算税として四四六三円)となつた。
(二) 右普通所得に対する税額の差額が生じた原因は、控訴人が申告にあたつて既に所得額算出の基礎に加えた損金計算法人税額七万八七二一円に全く理由のない五万〇一〇〇円を加増して、これを一二万八八二一円と修正したことに基因するもので、正当な課税要件のない水増課税であるから、その瑕疵の重大明白なることは明らかである。被控訴人は既往否認金認容額として三万六七七六円を控除する等、首肯すべき理由のない作業を加えているが、結局差引一万三二二四円については修正原因を明らかにしえず、前記五万〇一〇〇円の増額が、全く根拠のない捏造にほかならないことを暴露している。
(三) 前記超過所得に対する税額の差額が生じた原因は、被控訴人が、前項記載のとおり普通所得につき一万三二二四円の不当な修正をしたほか、期首現在の未納法人税額一万三一三四円を四万六二一八円と不当に修正したこにと基因して、係争事業年度における控訴人の資本金額三四万六九四二円が三一万七八三八円に減額され、超過所得額が二四万〇〇三三円から二六万一九八九円に改められた結果である。
控訴人の前事業年度の法人税に関し昭和二三年五月三一日付でなされた更正処分の結果納付すべきものとなつた税額を、係争年度の期首現在における未納法人税額に遡つて包含させるべきものとする被控訴人の主張は、法人の経理を全く不安定な状態に陥らしめるものであるから不当であり、右にいう法人税額とは、前事業年度末現在において既に確定している税金を該期益金をもつて翌期中に納付するため留保する負債としての法人税引当金に限定して解釈されるべきである。特に前事業年度に関する加算税は、申告期限(本件の如き場合は、更正による追徴税額の納期限となる。)の翌日から納付の日の前日までの日数に応じ算定されるものであるから、これを係争年度の期首現在における確定税額に算入しうべくもないことは明らかである。したがつて、被控訴人が右超過所得の認定を誤り、これに対する税額を不当に修正した点も、重大明白な瑕疵によるものといわなければならない。
(四) 右の次第で、控訴人の納付すべき法人税額はその申告額どおりであつて、追徴されるべき税額は存しないから、これに対する加算税の賦課も無効であるこというまでもない。
(被控訴代理人の主張)
被控訴人が控訴人の係争年度における超過所得を二六万一九八九円と更正するにあたつて、計算の根拠とした期首現在の未納法人税額四万六二一八円は正当な金額である。右にいう法人税額とは、後に更正等が行なわれて納付すべき法人税額が変更された場合の法人税も含み、前期分以前の法人税として納付すべき金額を指すものであり、本件において被控訴人が、控訴人の確定申告により確定した税額一万三一三四円に、控訴人主張の更正処分によつて追徴すべきものとなつた不足税額二万九九〇〇円および加算税額三一八四円を加えて右税額を算出したことは誤つていない。加算税は法定申告期限の翌日から追徴税額の納付期限までの日数に応じて計算するものがあるから、控訴人主張のように確定できないものではない。
理由
(一) 控訴会社の昭和二二年一〇月一日から同二三年九月三〇日に至る事業年度の法人税課税標準たる所得に関し、控訴会社から普通所得を三四万四一一六円、超過を二四万〇〇三三円とする確定申告をしたところ、被控訴人が昭和二六年二月二〇日、前者を三五万七三四〇円、後者を二六万一九八九円とする更正処分をしたことについては、当事者間に争いがない。控訴人は、右更正処分を、加算税を加えた税額自体に関する処分としてその効力を争うもののような主張をしているけれども、右係争事業年度につき適用されるべき法人税法(昭和二五年法律第七二号による改正前)の規定によれば、更正処分は課税標準すなわち普通所得および超過所得のみについてなされるもので、納税額は、確定申告にかかる課税標準に対する法人税額、法第三三条による追徴税額、法第四二条による加算税額等の合計額として、確定した課税標準に基き法の定めるところによつて当然算出されるべきものとの建前になつていて、本件更正処分としても税額自体についての処分がなされたものとは認められないから、控訴人の本訴請求の趣旨も、課税標準についての更正処分の無効を主張するものと解すべきである。右のうち超過所得に対する更正に関する部分は、当審において拡張されたこととなる。
(二) 先ず普通所得の更正について判断する。控訴人は前記のような普通所得の更正がなされたのは、所得金額計算上益金に加算すべき損金計算法人税(前期分)七万八七二一円に全く理由のない五万〇一〇〇円を不当に加増した瑕疵に基因するものであると主張する。しかし、何れも成立に争いのない甲第一号証の三・五、同第四号証、乙第一号証の三・四、同第二号証を綜合すると、控訴人の主張に照応するかのように見える乙第一号証の三の損金計算法人税欄記載の金額中には、利益処分によらない表現積立金の増加欄に本来記載すべきであつた三万六三四三円(昭和二三年五月三一日付でなされた前期の更正処分の理由となつた税金引当金否認額売上計上脱漏額架空仕入額の合計額に該り、控訴人は当期確定申告において、前者を期首現在の税金引当金に、後二者を前期からの繰越益金に加算している。)が含まれている(さればこそ同証において、右金額に、前期において否認された当期で認容されることとなつた建物の減価償却額を加えた三万六七七六円が、当期益金より控除すべき金額として記載されている。)ことが明らかであり、右事実に、原審証人加藤一(第一・二回)の証言、および控訴人が前営業年度分についても叙上のような理由に基いて更正処分を受けている事実を綜合すると、被控訴人において、控訴人主張のような、何らの理由もないのに五万〇一〇〇円を益金加算額に水増しした事実はなく、被控訴人が所得計算の根拠として益金に加算した一二万八八二一円は、控訴人も認めるとおりの損金計算法人税七万八七二一円に、前叙認定の三万六三四三円と、被控訴人が本件更正前に行とつた調査によつて控訴人の所得計算中の経費その他否認すべきものと認めた金額の合計一万三七五七円の合算額であり、乙第一号証の三には、これを誤つてすべて損金計算法人税欄に一括記載したものであることが認められる(右計算書類上の記載欄の誤りが処分の瑕疵とならないことはいうまでもない。)。
そうすると、控訴人の普通所得に関する本件更正処分に瑕疵があるか否かは、結局右一万三七五七円の否認原因の有無に係ることとなる。しかし、行政処分が無効であるというためには、当該処分に重大かつ明白な瑕疵が存する場合でなければならず、右にいう瑕疵が明白であるとは、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定の誤認であることが、処分成立の当時において、外形上、客観的に明白であることを指すものと解すべきである。被控訴人が更正処分をなすにあたり調査に基いてなした前叙の否認の当否の如きは、原則として、事実関係を精査して初めて判明する性質のもので、たとえ結果において被控訴人の認定に誤りがあり、あるいはその手続に疎漏があつたとしても、それをもつて直ちに、ここにいう明白な瑕疵ありとして、更正処分を当然無効とすることができないことは、明らかである。
それ故、控訴人の普通所得に関する更正処分を無効とする主張は、理由がない。
(三) 次に超過所得の更正について判断する。控訴人は超過所得の更正が無効である理由として、普通所得の更正に瑕疵があることのほかに、資本金額の計算上控除されるべき期首現在の未納法人税額を、被控訴人が不当に増額して算定したと主張する。しかし、何れも成立に争いのない甲第一号証の三・五、同第四号証、乙第一号証の一・四、同第二号証を綜合すると、被控訴人が資本金額算出にあたつて控除した未納法人税額四万六二一八円は、控訴人の確定申告にかかる所得額に対する法人税額一万三一三四円と、前叙認定の前期分課税標準に関する更正処分の結果追徴されることとなつた不足税額二万九九〇〇円およびこれに対する法第四二条第二項(昭和二三年法律第一〇七号による改正前)による加算税額三一八四円の合計額であることが明らかであるが、各事業年度の所得に対する法人税の納税義務は、各事業年度経過の時において課税要件が充足され、基本的には(一定範囲では、所定の申告手続の履行等を条件とする。)法律上確定的なものとして成立するのであり、後日の更正処分によつて課税標準が正当に把握された結果、確定申告額を基準とした税額に不足を生じ追徴されることとなつた部分についても、法律上は同様であつて、右処分により新たな納税義務が生ずるわけではないから、前年度分の更正処分が係争事業年度内になされ、追徴すべき不足税額が明らかとなつた以上、当該事業年度の確定申告においては、その額を期首現在の未納法人税額に含めて計算すべきであり、これを加算しないで申告がなされた場合に、更正処分がなされることは当然である。
したがつて、前記追徴税額二万九九〇〇円が未納法人税額に加算されたことは全く正当であり、そうすると、超過所得に関する本件更正処分に瑕疵があるか否かを判断する上に残る問題は、前叙加算税三一八四円まで加えて未納法人税額に算入したことの当否のみとなるが、これも、前事業年度の所得に関する的確な申告がなされなかつたため、更正処分を受け、不足税額が追徴されるに至つたのに伴い、これに加算して、前者とともに右年度の所得に対する法人税の一部として納付されるべきこととなつた税額であるから、前者とその取扱いを別異にすべき理由は存しない。のみならず、本件更正処分については、既に前叙のように追徴税額の算入が正当とされ、また普通所得に関する更正の効果を否定できない以上、控訴人がその主張のような普通所得および資本金額(控除されるべき未納法人税額を含む)の計算に基き正当な超過所得としている二四万〇〇三三円よりも、二万二一九四円の超過所得の増加を免れない筋合いとなるが、右控訴人主張の超過所得と更正額との増差額は二万一九五六円に過ぎないから、控訴人において右更正処分につき、叙上判示の諸点以外には無効原因の主張をしていない以上、前記加算税額の算入を不当とすることのみによつては、更正処分の無効を唱える理由となしえず(なお一般的に言つても、仮に右算定が誤つた見解に基くものとしても、それをもつて更正処分を当然に無効としなければならない程の重大かつ明白な瑕疵に該るものとはなしがたい。)、その主張の採りえないことは明らかである。
その故、本件処分中、控訴人の超過所得を更正した部分についても、これを無効とする控訴人の主張は理由がない。
(四) 以上のとおりであるから、本件更正処分の無効確認を求める控訴人の本訴請求は、すべてその理由なきものとして棄却を免れないものといわなければならない。
よつて民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条に則り、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三宅芳郎 裁判官 福地寿三 裁判官 横山長)